L55×W35×H30mm
銅 ブロンズ 真鍮 金箔
2009
キボシカミキリは黒色の地に黄色い斑紋をちりばめた親しみ深いカミキリムシで、全くの普通種と言える。住んでいる場所によって、色や斑紋に変異が大きいため、様々な亜種が存在する。また、体長を遙かに上回る黒く長い触角も特徴の一つで、キボシヒゲナガカミキリと呼ばれていた。
幼虫はクワ、イチジク、ミカンなどの生木を食料とし、都市郊外でもよく見られるが、他のカミキリムシ同様害虫としての扱いのほうが多い。
外見的には黒い地に黄色が良く生え、長い触角がバランスのいい体型を損なわず、カミキリムシの中でも特に見映えのする昆虫である。普通種であるから個体数も多いので、目にする機会も多い。
幼虫だけでなく成虫もクワを食害するため、養蚕農家などにとっては最大の敵と言える。カミキリムシは孵化した微小な状態で食樹の枝の中心へと潜り込む。この時点でその存在を察知するのは困難であり。以後、枝の幹の中心で組織を食べ拡げて行く。正に基幹部を犯されることになり、食われた部分から先には水分も養分も行き渡らなくなる。新しく発芽して先へと伸びて行く可能性が絶たれることになる。そうなるとそこから先はもう切り落とすしかなくなる。と思っていたのだが、実は無事羽化した成虫が後食と呼ばれるその部位の木の皮を囓ることで、そこから先が枯れるという説もあるが、どちらにしろ被害を受けた木は枯れる。
ところが、キボシカミキリの浸食は必ずしも食樹にとってデメリットだけを与えるのではないという見方もある。
動くことの出来ない一見無力な植物も、自助努力で敵を排除するシステムを持つ。樹勢強い青年期、壮年期の樹は、外敵に傷つけられても樹液を分泌させ、逆にカミキリムシの幼虫が穿孔した穴を固めてしまい、幼虫ごと封じ込めて殺してしまう。従って成虫は樹勢が強い株を幼虫の住処には選択せず、成虫が選ぶのは年老いて弱った樹が多い。それでも尚、樹の防衛能力が上回って幼虫が退けられるケースの方が多い。クワやイチジクとて自然の状態では、生育のための適地を持ち、適地は当然限られている。古い世代が限られた土地を占有し続け、若い株へと新陳代謝が進まないと種としては繁栄を妨げられることになる。キボシカミキリの巣くった樹は枝から蝕まれ、やがて次々と餌食になることにより枯死してしまう。これは結果的に次世代を担う若い株に道を譲ることに繋がる。キボシカミキリはこのように、去るべきものに引導を渡す役割を負っているとも言える。
ただ、桑畑は養蚕農家が人為的に適地を作り上げたものであり、効率の面からも一定数の樹がなければ蚕を養うことに支障を来す。だから、養蚕農家はキボシカミキリの侵略を由々しきことと考える。考えようによっては寿命の果てつつある樹の選別をカミキリムシが的確に行ってくれているのだが、そこまで余裕のある考え方が出来る養蚕農家は少ないと思われる。こうしてキボシカミキリは大害虫という汚名を被ることになる。
本作品では、胴体や脚などの各関節、顎、触角を可動できるようにし、黒いボディを硫化、黄色い斑点を金箔で表現した。
雄は雌に比べ触角がかなり長く、また、雌は体が大きくふくよかな印象の作りになっている。